David C
2025年4月11日
いま、歴史的な「富の大移動」が進行している。今後数十年でベビーブーマー世代やそれ以前の世代からミレニアル世代・Z世代へと引き継がれる資産は、推定84兆ドル(約1京円)を超える。
資産が世代間を超えて受け継がれるとき、何に価値を置き、何を重要視するかも変わっていく。その変化の兆しは、すでに暗号資産(クリプト)の人気拡大という形で表れている。
美術界にも同様の流れが起きている。2024年には、大手オークションハウスでの若手コレクター(ミレニアル・Z世代)の割合が25〜33%を占め、わずか5年前の2倍以上となった。
最近開催されたクリスティーズのAIアート専門オークション『Augmented Intelligence』では、参加者の48%がミレニアル世代・Z世代であり、登録者の37%がクリスティーズへの初参加だった。このオークションは72.8万ドル(約1億円)の売上を記録し、予想価格の60万ドルを超える成功を収めた。この新世代のコレクターがアルゴリズムとプロンプトによって生成されたアート作品に惜しげもなく資金を投じる姿が鮮明になった。
もちろん、AIアートが突然盛り上がったわけではない。2018年にクリスティーズが『エドモン・ド・ベラミの肖像』を43万2,500ドルで落札(予想価格の40倍以上)し、大手オークション初のAI作品として注目されたのが始まりだ。
昨年11月には、サザビーズがAIロボットのアイーダによる『AI神—アラン・チューリングの肖像』を108万ドルで落札し、12〜18万ドルという予想価格を大幅に上回った。これは、サザビーズ全体の年間売上が前年比28%減少した年に達成された記録的成果でもある。
こうしたAIアートへの関心の高まりは驚くべきものかもしれないが、関心そのものが存在するのは当然だ。AIが私たちの生活のあらゆる面に浸透している以上、ユートピアとディストピアの狭間を探求する作品に惹かれる世代が登場するのは極めて自然な流れだ。
NFTとAIアートは相性がいい
『Augmented Intelligence』のオークション作品のうち25%がNFT作品で、取引の大半は暗号資産で行われた。昨年の『AI神—アラン・チューリングの肖像』の取引も同様だ。
NFTとAIアートがますます深く結びつく傾向にある。クリスティーズや美術業界の一部はAIアート、NFT、暗号資産との間に明確な境界線を引こうとしているが、現実にはそれらは密接に絡み合っている。
NFTは、デジタルアート作品(特にAI生成作品)の収益化や所有権の追跡、転売に適した仕組みを提供する。また、多くの著名なAIアーティストがNFTプラットフォームで最初に脚光を浴びたように、NFTはテクノロジーとアートを結ぶ架け橋として機能してきた。
さらに、NFTはスニーカーや希少なテック製品、ストリートウェアなど、伝統的な「アート」と「資産」、さらには「アイデンティティ」の境界線を曖昧にする非伝統的なコレクターズアイテムを好む若い世代の感性とも一致する。
同時に、NFTは従来の高級美術品と比べて取り扱いや価格面でもアクセス性が高い。Artsyの2024年の調査によると、37歳以下のコレクターの82%がオンラインでアート作品を購入している。このデータからも、若い世代が「デジタル・ファースト」のアプローチを強く好んでいることが分かる。
カルチャー的な必然性
若い世代がNFTやAIアートを好む背景には明確な理由がある。
彼らは経済的な不安定さや住宅価格の高騰、伝統的な社会システムへの不信感の中で育った。特に2008年の金融危機はシステムの根本的な欠陥を露呈し、多くの人々を暗号資産などの代替手段へと駆り立てた。
こうした伝統的な枠組みに対する懐疑心やデジタルプラットフォームへの慣れ親しみが、彼らのアートへのアプローチを形作っている。最先端のテクノロジーに魅了された世代がAIやNFTを積極的に受け入れるのは、自然な流れだと言えるだろう。
この意味でNFTは単なる流行ではなく、若い世代が所有や投資、文化への関わり方について持つ価値観を反映するインターネットネイティブなインフラとなっている。また透明性を重視する若いコレクター層にとって、NFTの特性は魅力的だ。
つまりAIアートとNFTの交差点は、この世代の関心に次のようにフィットしている。
⬆️ 新興性— まだ未定義のカルチャーをつくれる
🤖 関連性— AIは日常生活におけるテクノロジーの象徴である
🌐 デジタル統合性— アクセス性や可搬性を重視する世代の好みに合う
💎 暗号資産との親和性— 美的価値だけでなく、オンチェーン資産としても機能する
2023年にはNFT市場が落ち着いたにもかかわらず、AIアートやジェネラティブアートのオークション販売が過去最高を記録した。最近の調査によれば、コレクターの40%がAIアートへの投資を増やす計画であり、この世代交代の流れは加速しそうだ。
ムーブメントを牽引するアーティストたち
この分野をリードするアーティストには次のような人物がいる。
Botto(DAOによって運営される分散型AIアーティスト、売上400万ドル超)
Claire Silver(LACMAに収蔵、クリスティーズやルーヴルで展示)
Ivona Tau(抽象とテクニカルな要素を融合した作品)
Pindar Van Arman(機械に自身の作風を学習させる神経ネットワークアーティスト)
Refik Anadol(データと機械学習を駆使した没入型インスタレーション)
Roope Rainisto(現実と仮想の境界を探る写真×生成AIアーティスト)
AIアートNFTの台頭は単なるブームではなく、この世代の価値観を映し出した必然的なカルチャーの形なのだ。