今やAIはニュース記事、画像、オンライン上の人物像など、多くのコンテンツを生成している。ディープフェイクが急速に拡散し、嘘は訂正よりも早く広がる。これらは混乱をもたらすだけでなく、具体的な被害を生んでいる。
2019年の偽情報キャンペーンによる経済的損失は年間780億ドル。
2024年の選挙の95%がフェイクニュースに影響を受けた。
2025年時点でメディアを信用しない人が70%。
2022年の調査では、ジャーナリストの26%が無意識のうちに誤った情報を報じていた。
インターネットはかつて「真実へのアクセス」を約束していた。しかし規模が拡大するにつれ、その約束は崩壊した。信頼は個人的な関係から制度的な権威へと移り、最終的には信頼性と保護を提供するデジタルプラットフォームへと変化した。
だが、これらのプラットフォームが「真実のゲートキーパー」となるにつれて、信頼は中央集権的かつ脆弱なものになった。信頼されてきた組織は今や遅く、不透明に感じられ、従来の仕組みは今日の情報の流れに対応しきれていない。
ここで新たな意義を持つのがクリプト(暗号資産)だ。クリプトは当初、信頼を不要とする取引のために設計されたが、今では透明性、インセンティブ、非中央集権を通じて見知らぬ人同士が合意を形成する「信念調整の基盤」へと進化している。
金融から情報へと用途が広がったことで、AI時代の中心的な問い――「何が真実か?」そして「誰を信頼すべきか?」――に対する新たな答えを提供しているのだ。
真実:ブロックチェーンが提供する現実性の担保
ウェブは情報で溢れかえっているが、同時に信頼性が損なわれている。ディープフェイク、架空のテキスト、加工された画像が、真実と虚構の境界を曖昧にする。問題は単なる誤情報ではなく、真実を検証する仕組みそのものが古く、信頼されていないことだ。
ここで登場するのがブロックチェーンだ。公開台帳や市場を通じて真実を記録し、検証可能にすることで、真実が侵食される問題に対応できる。
ブロックチェーンは情報の起源をタイムスタンプで記録する。NFTがその好例であり、デジタルメディアの真正性を証明可能にすることで、インターネット時代においても「オリジナル」の価値を保護する。
また次のようなプロジェクトも登場している。
「Story Protocol」:著作権法を補完し、創作者がIPをチェーン上で証明できる分散型システムを提供。
「Sui」:各デジタルアイテムが永続的な履歴を持つオブジェクトとして管理され、真実性がデジタル環境に組み込まれている。
「BitMind」:AIプラットフォームBittensorのサブネットで、クリプトのインセンティブを利用してディープフェイクを識別する。
「予測市場(Polymarket)」:経済的インセンティブを用いて真実を導き出す。深い流動性があれば精度は高まり、既存の検証方法よりも効率的に真実に近づける。
信頼:ブロックチェーンが提供する信頼性の再構築
何が真実かを知ることは重要だが、それと同じくらい重要なのは、事実が明らかでない場合や匿名性が高い環境で誰を信頼するかだ。
この課題に対しても、ブロックチェーンは公開記録や共有資格、監査可能なシステムを通じて信頼構築を支援する。
分散型アイデンティティシステムは「誰が本物の人間か?」という問題を様々なアプローチで解決する。Worldcoinは虹彩スキャン、Humanity Protocolは手のひらの生体情報を利用し、Billions Networkはパスポートとスマートフォンのみでシンプルに本人確認を実施する。
さらに分散型識別子、検証可能な資格情報、ソウルバウンドトークンなども活用され、「AI時代に相手が人間であるか」を確認できる。
AIが説得力を増すにつれ、この問いはより緊急性を増している。OpenAIのサム・アルトマンが指摘したように、AIは知性を超える前に説得力で人間を凌ぐ可能性がある。
また社会的レベルでも、クリプトのシステムは「信頼」の微妙さをより適切に反映できる。例えばIntuitionプロジェクトはユーザーが相互に推薦し合う「Web of Trust」を構築し、状況に応じた評価を提供する。
これらのシステムは万能ではなく、予測市場は操作可能であり、認証は完全ではなく、IDプロトコルも発展途上だ。しかし重要な違いは、クリプトシステムが進化できることにある。中央集権的プラットフォームが壊れればユーザーは身動きが取れないが、分散型プラットフォームならコミュニティが修正・改善できる。
AIが情報環境を変える中、クリプトプロトコルは真空地帯を埋めつつある。
真実は固定的なものではなく、公開プロセスである。
信頼は上から与えられるものではなく、状況に応じて獲得し、携帯できる。
これらの変化は単なる技術の進歩ではなく、基盤そのものの変化だ。これにより私たちは、検証方法、信頼の対象、協力して作り上げられるものが根本的に変わっていくだろう。この流れが続けば、クリプトは単なるアプリの運営に留まらず、AI時代の信念や信頼構築の基盤としての役割を果たすようになるだろう。