Web3ソーシャル盛衰記:Friend.techとFarcasterのあの頃と今
かつて、Web3版SNS(分散型ソーシャルメディア)は、既存のTwitterやFacebookの課題を解決し「ユーザーが自分のデータやアイデンティティを所有できる」夢を掲げて次々に登場していました。
Friend.tech、Farcaster、Nostr、Phaver、Mask Network、Lens Protocol──これら主要プロジェクトはいずれも一時期大きな注目(ハイプ)を集めましたが、その後ユーザー熱が落ち着き、「下火」と評される状況になっています。
本記事では、Friend.techとFarcasterのプロダクト概要や立ち上げ時のストーリー、創業者の思想を紹介しつつ、オンチェーンデータやユーザー統計から盛り上がりのピークと現状を比較し、「なぜ失速したのか」を検証します。
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プロダクト概要
Friend.tech(フレンドテック)は2023年8月に登場したソーシャルファイ系DAppです。CoinbaseのL2チェーンBase上に構築され、ユーザーは自分のTwitter(現X)アカウントを紐づけて登録し、自分や他人の「鍵(Keys)」(旧称シェア)を売買できます。
あるユーザーの鍵を購入すると、そのユーザーとのプライベートチャットへのアクセス権が得られます。
鍵の価格は需要に応じて自動で上下し、有名人やインフルエンサーの鍵ほど高騰する仕組みです。
この売買ごとに手数料10%が発生し、5%が鍵発行者(=インフルエンサー)に還元、残り5%はプロトコル収入になります。
要するに「推しと1対1で話せる権利」を売買するマーケットであり、人気者ほど儲かるというファン経済の極致です。
立ち上がりのストーリー
Friend.techはリリース直後から招待コードが飛び交い、Crypto X界隈で爆発的なブームに火が付きました。
著名トレーダーやインフルエンサーが参入し、自分の鍵を宣伝したことで、まさに「人間株式市場」さながらの熱狂が発生しました。
「〇〇さんの鍵が◯ETHに!」「有名投資家が新規参戦!」といった具合に、売買高がうなぎ登りになったのです。
背景には「今後Friend.tech公式トークンがエアドロされる」という期待もあり、ユーザーは毎週付与されるポイントを競って獲得していました。
実際、Friend.techは開始2ヶ月で累計82万ものユーザーを集め、リリースからわずか1ヶ月で200万ドル超のプロトコル収入を上げています。
収益規模は一時DeFiトッププロトコルに匹敵するほどで、まさに2023年後半最大の話題DAppとなりました。
Friend.techの盛衰
2023年8月のローンチ直後に急増し10月にピーク(両者合計約8万人)を記録、その後急減して2024年初頭には数千人規模まで減少しました。
ハイプと現状
上のグラフが示すように、Friend.techの熱狂は急激に冷めました。2023年9月中旬に日次取引数が53万9800件という記録的ピークを打ち、10月中旬にはアクティブユーザーが合計約8万人(購入者と販売者のユニーク数)に達しましたが、その後は下降の一途です。2024年1月には日次アクティブ利用者数1,000人台まで落ち込んだとの分析もあります。
最新データでも日次の鍵購入/売却ユーザーは3,000人前後と、ピーク時の数%に過ぎません。鍵の売買総数も累計1,368万回に達した後は伸び悩み、市場参加者の大半が去ってしまった状況です。
なぜ失速したのか
最大の理由は投機熱が先行しすぎたことでしょう。
Friend.techでは鍵価格が短期間で暴騰・暴落し、「とにかく有名人の鍵を買って値上がり益を狙う」という投資ゲーム化していました。
初期ユーザーの多くは潜在的なエアドロップ報酬や転売益を期待するyield農民だったため、肝心のプラットフォーム上のソーシャル体験が二の次になっていたのです。
実際、一部の人気ユーザーを除けば鍵保有者限定チャットも盛り上がりに欠け、「結局、中身がない」と感じたユーザーから離脱していきました。また、収益構造上インフルエンサーが煽り投稿で取引を促進するインセンティブが強く、短期的な盛り上がりは生んだものの長期的なコミュニティの粘着性(スティッキーさ)に欠けました。
さらに決定打となったのは、肝心のトークンが発行されなかったことです。期待されていた公式エアドロップが2024年春になっても告知されず、期待外れとなったユーザーは一気に離れていきました 。こうしてFriend.techは「上がって下がる」の典型**とも言える急成長と急失速を経験したのです。
Farcaster:堅実に育った分散型Twitter、それでも壁に直面?
Farcaster(ファーカスター)はEthereum系の分散型ソーシャルプロトコルです。2022年9月、元CoinbaseのDan Romero氏らによって立ち上げられました。当初は招待制で運用され、Ethereumメインネット上のNFTとして「Farcaster ID(FID)」を発行しユーザー登録する仕組みでした。
投稿(キャスト)自体は独自のオフチェーンネットワークで配信され、完全オンチェーンではない「十分に分散化された(sufficiently decentralized)」アプローチを取っています。
例えるなら「TwitterクローンをWeb3的に再設計」したようなもので、ユーザーは自分の公開鍵(Ethereumアドレス)で識別され、どのクライアントアプリからでも同じソーシャルグラフにアクセスできるのが特徴です。
公式クライアントのWarpcastをはじめ複数のアプリが開発され、オープンなソーシャルデータ上に様々なサービスを載せるプラットフォームを志向しています。創業者Romero氏は「プロトコルとしてのソーシャル」を追求しており、分散型IDやコミュニティ主導開発を重視する思想でした。
立ち上がりとハイプ
Farcasterは招待制ゆえにゆっくりとユーザーコミュニティを育て、2023年までは数千人規模のクローズドな雰囲気で進んでいました。しかし2023年10月にプロトコルがパーミッションレス(許可不要)に開放され、誰でも参加可能になると状況が変わります。
さらに「チャンネル」機能(トピック別の公開フォーラム)が追加され、コミュニティごとに独自トークンを発行する動きが出てきました。
例えば2024年1月末、非公式の「Degen」チャンネルが参加者全員に$DEGENトークンのエアドロップを発表したことでユーザーが殺到。同時期に実装された投稿内にWebアプリを埋め込める新機能「Frames」も話題を呼び、2024年2月にはFarcaster上のトランザクション(投稿やリアクション等)が2週間で3倍に急増しました。こうした施策が功を奏し、Farcasterは2024年前半に大きな成長波**を迎えます。
Farcasterの盛衰
日次アクティブユーザー数(Unique cast者数、リアクション含む)の推移。2024年2月に急増(3万~4万DAU規模)した後一旦沈静化するも、4月に再び上昇しピーク時には7日平均で約4万~5万人規模に達しました。
ユーザー数とオンチェーンデータ
Farcasterは2024年2月に一度ピーク(約3万強のDAU)を迎えた後、3月にやや落ち着き、4月に再度の盛り上がりを見せました。2024年4月には日次アクティブユーザーが過去最高の約8.5万人を記録し(Romero氏の報告)、月間アクティブユーザー数も20万人を超えています。
その後も7日間平均で約4万弱のDAUを維持しており、Friend.techとは対照的に「一発屋」で終わらない継続的な利用が確認できます。累計ユーザー数(ユニークアドレス数)も2024年5月時点で約35万と報告されました。
こうした堅調なユーザー増加を背景に、2024年5月にはParadigm主導でシリーズA資金調達1.5億ドル(評価額10億ドル)という大型投資を獲得し、Vitalik Buterin氏からも「有望な分散型ソーシャルネットワーク」とお墨付きをもらうまでになりました。
現状と課題
一見順調に見えるFarcasterですが、課題が無いわけではありません。最新の分析では、ピーク時から約40%ほどユーザーエンゲージメントが低下したとも指摘されています。実際、4月の祭り的盛り上がり(大型投資発表やイベントによる話題)が一段落したあとは、日次利用者がやや減少傾向にあるようです。
それでもなお3~4万人規模のDAUは維持しており、細く長く息の長いコミュニティを築けている点は高く評価できます。
Farcasterの強みは「最初は小さく洗練させてから拡大した」戦略にありました。招待制でコアユーザーを醸成し、UXも当初はWeb2ライクに感じられるよう工夫したため(多くの操作がブロックチェーン取引不要でスムーズ )、ソフトランディングに成功したのです。
一方でトークン未発行であることから爆発的な投機ブームは起きにくく、その分地味とも言えます。将来的に収益化や完全な分散化をどう進めるか、またTwitterなどWeb2巨大ネットワークからユーザーを本格的に引き寄せられるかが、今後の乗り越えるべき壁と言えるでしょう。
もっともRomero氏自身「数年かけてインターネット規模のプロトコルに育てる」と長期戦の構えであるため、短期的な上下より腰を据えて普及を狙う路線なのかもしれません。
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